絵本作家・せなけいこさんの訃報に接し、数ある作品の中で、我が家の子どもが特に気に入っていた『おばけのてんぷら』を思い出しました。
てんぷらを作ることにしたうさこは、材料を切って衣につけて油の中へぽちゃんと入れていきます。揚げたてのてんぷらはあまりにもおいしそうで、ついついつまみ食いもしてしまいます。そして、外してあった自分のめがねもいつのまにか衣の中へぽちゃん。てんぷらのいいにおいに誘われて、忍び込んできたおばけまで衣の中へぽちゃん。めがねもおばけもてんぷらにされてしまうのかしら? 子どもが幼稚園へ通っていたころ、何度も何度も借りてきては読み聞かせていた記憶がよみがえりました。 私自身も幼稚園生のころから見聞きすることの多かったせなけいこさんの作品は、唯一無二の風合いで、子ども心に不思議なことや楽しいことをたくさん見せてもらえる絵本でした。 作品中にはいつもたくさんの表情があったように思います。 プンプン怒った顔、悲しくて泣いている顔、嬉しくて笑った顔、びっくりして驚いた顔、安心してほっとした顔など。 子どもが出会う最初の絵本として、長年愛されてきた理由はこうした豊かな表情があるからだったように思います。